第五話「FIFO物語」
私は最近日本酒が好きになりました。といっても、大吟醸に限ってのことです。中でも、できたての香りの高い、美味しいものを好みます。私が大吟醸が好きだとあまり宣伝するもので、多くの人々がこれぞ大吟醸というものを送ってくれます。日本には古来から(?)贈物をするという美しい習慣があります。この習慣が季節的なものであるために、送られたものには在庫管理の問題が発生します。当然私はIE的にこの問題を処理します。すなわち、戴いたものを先入れ先出しの原則に乗とって頂き、在庫中のお酒に古くなるものが出ない様に注意深く頂いておりました。しかし、ある時重大な問題に気がつきました。

もう賢明な皆さんはお気付きでしょう。

そうです。このような時に先入れ先出しを守ると、全体を一様に古くして飲むことになります。この傾向は在庫が多ければ多いほど顕著になります。その時私がやっていたことは、わざわざ新しいものを、ある原則を守るために、古くして飲んでいたのです。この様な時にはむしろ先入れ後出し(あるいはもっと現実的な言い方をすれば、後入れ先出し)原則を採用した方がよいかもしれません。

もちろん、それは私の目的がなんであるか(効用関数とか目的関数とかいいます)によります。初めに説明したように、私は香りの高い大吟醸が好きです。初めから香りの高くない大吟醸もありますが、香りの高いものでもなるべくできたてが美味しいのです。私は後入れ先出しに切り替えました。そうすると、永久に出番のないお酒も発生しますが、それは料理用に回すことにしています。在庫が少ない時でもこの原則を採用することで損することはありません。 アメリカの大学に入ってすぐのORの試験で「FIFOについて説明せよ」という問題が出たことがありました。恥ずかしながら知りませんでした。つまり、FIFOはfirst come first servedの略でした。当然先入れ先出しぐらいは知っていましたが、FIFOがそうだとは知らなかったのです。またORの実践ではこの原則が重要視されていたのです。理論中心の日本のORの試験にはでなかったと思います。考えてみれば、会計の原価取得主義などと同じに大事な原則だったわけです。

それでは、FIFOはどのようにして生まれてきたのでしょうか。会計の場合は理解できます。一貫性のあるやり方でものの価値を評価しようとして生まれました。生産管理でこの原則が重要視されるのは品質管理上でのロット追跡をしやすくさせるためだと思います。当然材料などに価格変動がある場合には会計上の必要性も生まれます。しかし、この原則を本当に守らなくてはならないでしょうか?。生産にとってのメリットはあるのでしょうか? 通常の生産管理でも、この問題はないのかどうか考えてみることにします。例えば、今日出荷する商品をたまたま今日生産していたとします。通常のやり方では、今日出荷する商品は以前に作られて倉庫に入っているものを取り出して引き当てます。そして、今日生産されたものは倉庫に入れられます。生産現場から直接出荷場にものを移動した方がはるかにコストが安いのにです。その上、ほんの何時間前に性能テストが行われたばかりものなのにです。倉庫から出されたものはFIFOの原則からいけば一番古いものです。あまり長い間倉庫にあったので部品が結露してしまい、性能不良になっているかも知れません。つまり性能という面からは一番よくないものを選んでいるのです。LIFO(last in first out)をしていれば、永久に倉庫からでてこないものであったかも知れないものかもしれないのです。設計変更を考慮しても、最新の設計で作ったものの方がトラブルは少ないはずです。

コンピュータが発達している今日ではロット追跡をしなくても、一個一個の製品の追跡が可能です。古い原則は捨てなけれなりません。少なくとも、古い原則は時々疑ってみる必要があります。この話は、生半可な学問が思考の妨げになっているというよい例だ、ということもできます。皆さんも考えてください。ご意見を聞かせてください。

早速熱心な信者よりご意見が届きましたのでここでご紹介します。

住永です。ようやくGNNのHomePageにたどりつき見させてもらっています。FIFOの話、興味深く読みました。同時に3つのことが頭に思い浮かびました。

1.小さな頃 食べるものでもらいものがあると、おばあちゃんがとにかく神棚か仏壇に長期間在庫してしまうため、たいてい固くするか、腐らせてしまったこと。何か一番おいしい時に食べることに罪悪感があるような感じでした。祖母に学習効果はなく、一度文句をいったらものすごく怒られました。ばちがあたると言って。(まだあたっていませんが)

2.私の会社の人事は FIFOで課長になるには、最低で入社後 14年、部長は22年と決まっています。どうしてかの説明はありません。

3.スイスは永久中立国であるため、非常時に備えて小麦は数年分の在庫を持っています。このため食べるころになると古くなっておいしいパンができません。この解決策としてまずいパンをチーズとワインを溶かした熱いなべに串でさして突っこんで食べるチーズフォンデュウが生まれたということです。でもこれはたぶん昔の話でこのクリスマスに、スイスのスキー場に行っていましたがこのパンはドイツのパンよりおいしかったです。ではまた。IE小話の続編、期待しています。

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