第六話「あと工程はお客様か?」
る工場に、その会社が作っている製品のサービス部品を作っている工程がありました。工程が狭く作るものの種類が多いために作業場はいつも混乱していました。担当の課長は工程が狭いからこんなことになるのだと考えていましたが、スペースが欲しいと主張できる環境にないことも知っていました。その結果この工程が混乱するのは作業場のレイアウトが悪いからだと思うようになりました。

ここで作らなければならないサービス部品は全部で172種類で、総部品点数は約1,500種類でした。注文のきかたがどのくらいバラついているのかを知るために、過去3年間にわたって調べた結果わかったことは、ワークロードにして毎週プラスマイナス30%ぐらいのバラツキがあり、時には月にして通常の2倍近く注文がくることがあり、当然、半分の月もありました。そのようなわけで、当然この工程は納期遵守率の低い工程とみなされ、常にことあるごとにお客である社内のサービス部門やOEM先からのおしかりを受けていました。典型的な発注のパターンを3つほど以下の図で示します。



発注する管理部門は、サービス部品を専門に在庫し配送している部門がコンピュータを使っておこなっていました。例の"定量発注方式"というやつで、在庫が前もって決めたあるレベルに達すると、コンピュータがある量を自動的に発注するというものでした。おそらく、その先にある各地区のサービスセンターでも同じことをしているのでしょう。また、OEM先からも恐らく同じやり方で注文がくることは容易に想像できます。

もう賢明な皆さんはお気付きでしょう。

そうです。サービス部品製作工程を悩ませてきた注文の波は「後工程」という名の人がコンピュータを使って作っていたものだったのです。本当のお客様は、この工場の商品である機械が故障したり消耗してサービス部品を要求する機械を使っている人々です。そのような本当のニーズはきっと安定したもののはずです。人工の波が172種類の部品について重なり合った場合を想像してみて下さい。多くの場合、波は打ち消し合う方向に働きますが、時として大きな山や谷を作ります。このことを私は「自分で作った波で、自分が溺れる」といいます。これはビジネスのあらゆる局面で起こります。このことについては又別の機会に話します。  このように、サービス部品製作工程が人工的な波を認めている限り、工数の波は避けられません。部品の発注をしている「後工程」の人々は製造工程のワークロードのことなどは考えていません。「後工程」のいいなりになっていたのでは自分の身は守れません。よく考えてみれば、自分の生産の生産計画を他人に立ててもらっていることがおかしいのです。生産計画を立てるという問題の所有権は自分にあるのです。それではこの波をどうやって安定させればよいでしょうか。方法はいくらでもあります。とにかく過去のトレンドを基にして未来をスムーズな線で予測してみることです。これを172部品についてやってみることです。

このようにすることで、いくつかの面白いことが判明しました。先に172種類のサービス部品の中には需要が安定していて、毎日作っているものがあるといいましたが、同様に安定しているものが更に3種類もあることが分かりました。当然、丸1日分の需要はありませんでしたが、工程を常設する価値のあるものでした。これらの量の多い安定したものはカンバン方式で管理して、通常のシステムから外してしまって、コンピュータの負荷を減らすことも考えられます。また、需要予測の精度を上げるためには、サービス部品を必要としている商品が市場で使われている数(MIF : Machines In Fieldといいます)の変動を考慮に入れるとよいことが分かり、そのようなデータが社内に存在することも分かりました。 上記のように積極的に環境状況を把握して、自分の運命を自分で決めることによって、この工程はワーク・ロードの波を乗り越えて、生産をすることができるようになりました。このようにして、初めてレイアウトの問題に取り組むことができるのです。問題が発生したと思ったり、問題を上司から与えられたりした時に、その問題を解くことが本当によいことなのかどうかを考えないで、すぐ、「どうしたらよいか」とか「何かよい方法はないか」と考えたくなるのは通常のことです。これは我々の社会通念や教育制度がそうさせているのです。チョット反省してみましょう。 それにしても、「後工程はお客様」という「考え」はそろそろ「考えもの」になってきました。後工程といっても、コンピュータが単純な在庫管理をやって、情報を送りつけているだけのものです。それなら「お客様から直接この工程が注文を受けたらどうなのか」と考えてみることすらできます。もちろん、サービス部品はもっと沢山あって、そのうちのわずかばかりがこの工程にくることは分かりますが。いずれにしても、全工程が、「本当のお客様」が後工程であると考えて行動すべきではないでしょうか。最近のサプライ・チェーンという考えも、このような考えの延長線上にあります。特に間接的な業務はこのように考えないと改善できません。

たまたま、その工場が新しくコンサルタントを雇うことにしていて、「問題があるものは申し出よ」とのお達しがありましたので、彼は早々に手を挙げました。コンサルタントが話を聞いてみると、問題はレイアウトのみが原因とも思えませんでした。仕事が忙しい時と暇な時があり、忙しい時に大きな混乱が起こるということがわかりました。現場の人々の言いたいことをひと通り聞いたあとでコンサルタントは宿題を出しました。「来月私が来るまでに、この工程で作っているサービス部品すべての過去3年間の受注状況をグラフにしてみて下さい。さらに、その発注はどの部門がどのようにして出しているかも調べておいて下さい。」と、いうものでした。 現場の人々はけげんな顔をしました。今レイアウトについてアドバイスを受けたいといっているのに、過去の注文について調べるというのは納得がゆかないという顔でした。コンサルタントの考えでは、レイアウトは「一瞬の空間」の問題ですが、その上を流れているもののある期間を通した「時間的なものの流れ」の問題を考慮しないわけにはゆかないからでした。次の月に分かったことは以下のようなものでした。 作るものは取替え部品と補修部品とあり、取替え部品の中には安定して需要があり毎日作っているものもありました。この部品については工程が固定化されていて1個流しで作業が行われていました。その逆に補修部品の中には1年に1回しか注文がこないものがあり、しかも量が少なく30個〜100個ぐらいのものを作らなければなりませんでした。こういうものに限って特急品が多く、作業の準備のために治具を探したり、図面を探したりしなければなりませんでした。作業のために必要な部品は、サービス部品を発注してくる管理部門が担当してくれるので、この部門で部品の手配を心配する必要はありませんでした。

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