第八話「21世紀初頭に思うこと」
新世紀に当たりIEが直面する重要なテーマについて書くことにします。IEを専門にしている私は、IEの考えや手法の持つ潜在的な能力にもかかわらず、それほどに社会から歓迎され、使われていないとも考えています。

例えば、IEが生産現場で能率の向上のために手段として、大いに期待され、その期待に応えていることは事実ですが、それが生産以外の他の分野、例えば開発や、営業や、本社レベルの間接部門に適用されているかといえば、そうでもないのも事実です。あるいは、産業分野別に考えて見ると、生産、物流、一部のサービス業を除けば、効率という点から考えれば、いくらでも問題をかかえていると思われる業界、例えば金融、建築、土木、食品、医療など、が多く存在します。あるいは、社会的な視野で見ると、公共事業における非効率さや、お金の無駄遣いが発生しているにもかかわらず、これらの組織体においては、IE的活動をする組織機能がなく、効率に関する明確な評価基準すらない場合があります。一方、IE的考えや手法をよく使い、企業内の全部門にわたって改善活動を全面的に定常的におこなっている企業は、トヨタ関係の多くの企業を除けば、決して多くはないのです。

結局、IEが使われるか否かは、IE自体の問題ではないのです。経営者がIE(経営プロセスの改善)を必要とするかどうかの問題なのです。それではなぜ、経営者がIEを必要と考えないのでしょうか?

賢明な読者の皆さんはもうお分かりでしょう。

経営が効率向上を必要としない理由は沢山あります。まず、かつて日本が今の開発途上国と同じに低賃金国であった時、製品が圧倒的な競争力をもっていて、売手市場をにぎっている企業、政府とさえうまくやっていれば利益が保証されている企業、多くの公共事業のように競争そのものがない組織体では、IEは必要ではありませんでした。ところが、現在日本がおかれている場面は上記のどれでもなくなりました。
IEがうまく利用されていないのは、経営者がだめだからなのです。経営が「結果重視型」だからで、「過程重視型」になっていないからなのです。21世紀になると、(結果は当然のこととして重要ですが)経営が過程重視型にならざるを得なくなります。そうなると、経営者に要求される資質が、今までとは全く違ったものになります。経営のプロセスが理解できる、学歴や派閥などではなく実力のある経営者が要求されてきます。それまでの間、我々は、利用されない不幸などは気にしないで、実力を身につけておきましょう。

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