第十八話「自分で作った波で自分が溺れるミステリー」
ある会社の在庫管理グループが毎月末に、平常在庫レベルである5億円を目標の3.5億円に少なく見せるため、発注を操作し、月初にそれをまた元に戻す操作をしていました。そのための仕事量は馬鹿にならないものでした。誰もが、「こんな馬鹿げたことだけはしたくない」と考えていました。問題はそれだけではなく、受け入れ処理グループも検査グループも仕事量が、月初に2倍も増え残業になり、大変な迷惑を被っていました。

もう、賢明な読者はもうお分かりでしょう

この問題の根本には、期末の財務処理上の在庫量(金額)を見掛け上少なく見せたいという要求があるようです。短期的に考えれば、この問題の所有者は在庫管理グループではなく、経理グループであるから、この処理を経理グループが行なうべきでしょう。どうしても、在庫管理グループがしなければならないのなら、中期的な案として、月末処理と月初処理を最も効率的にできるソフトウエアーを開発すべきでしょう。長期的には、在庫管理手法を改善して、特別なことをしなくても、平均在庫が目標レベルに達するようにすべきでしょう。

この問題で考慮する空間を広げて考えれば、期末在庫のみを見掛け上少なくすることの無意味さを経営陣が認めて、在庫操作をするのを止めるのが一番良いでしょう。あるいは会計処理と在庫管理がリアルタイムで結ばれていれば、月末だけ在庫を減らすことの無意味な仕事は無くなります。皆さんの会社ではこのようなバカげたことはやっていないと言い切れますか?。月末の製品在庫を少なくするために、月末の生産を止めて月初に残業してませんか?。営業の売上が期末や年度末になると急に増え、期初や年初に格段に減りませんか?。

営業部門の場合は当事者の営業部門がこれを自分の利益のためになることと信じてやるケースが多いものです。つまり、営業のボーナスはその期をしめた数字で計算されます。そのため、締切り前に格段の努力をして成績を上げれば自分のためになります。しかし、期初の落ち込みは大きくなり結局、一年を通せば同じ事です。このからくりは最初にそれをやった人が一回だけ得するだけで、後は悪い習慣になるだけで、無意味なことです。期末に合わせてお客が急にものを買うはずもありません。悪いケースでは期初に売った商品を返品させることもあります。従ってその急激な荷動きに伴って発生する仕事量の変動にかかる余分な費用も馬鹿になりません。それでも、営業の場合は動機付けのためにお祭りのように、無駄なことと知っててやっています。これを私は一回だけ儲けのために、永遠の地獄を見ると呼びます。

このようなことが何故起こるのでしょうか?。月末、期末、年度末の数字を良く見せたいというのであれば、これは立派な粉飾決算です。むしろ、初めの意図は薄れてしまっているけれども、単なる習慣となっていて、誰も勇気をもって修正しないために起こっているケースが多いのではないでしょうか。何の利点も無いのに、習慣的に無駄を発生させているとすれば、「馬鹿げた」ことを通り越して、「馬鹿な」ことをやっているとしか言いようがありません。

実はこのようなことは外にもあります。例えば、自社の商品の消耗品だけを詰め替えたコピ−商品が作られないように、いろいろな策を講じて邪魔をしても、結局は開かない鍵はないの例えの通り、難なく破られてしまいます。そして、それをすることによって自社製品をリサイクルする段になって、分解しようとするととても難しく、作業性が悪いことがあります。それは分解をし辛いように作ったわけですから当然なことです。わずかな量のコピー商品を邪魔しようとして、自社製品全てが分解し辛くなってしまうのは、いかがなものでしょうか。

戻る