第十九話「ムリ、ムラ、ムダ」
ムリ、ムラ、ムダは悪か?

IE活動の評価基準の一つに、仕事の中から「ムリ、ムラ、ムダを排除する」といういのがあります。このすばらしい着眼点を何時誰が言い出したのかを調べてみたことはありません。同様なことが、「チョコ停」という着眼点にも言えます。工業製品を作る上での評価基準は「全く同じものを、作りたいだけいくつでも作れることです」。そのためにはムリ、ムラ、ムダは大敵です。それでは、ムリ、ムラ、ムダは悪いことばかりなのでしょうか?

もう、賢明な読者はもうお分かりでしょう

実はそんなことはありません。問題解決において問題を厳密に定義するためには、解決すべき問題の定義域を明確にしなければなりません。問題は「時間、空間、価値観」の3次元で定義されます。ムリ、ムラ、ムダが価値観として有効な場は、目前の仕事の効率を向上させたいという、通常の改善活動においてです。ところが、ムリ、ムラ、ムダを排除するためにはアイデアが必要です。アイデアは「高い目標と余裕」がないと生まれて来ません。この場合の「高い目標」とは、「ちょっと無理かな」といった程度のもので、「余裕」とは「時間、お金、失敗」の余裕です。

高い目標を立てると言うことはムリを強いることです。アイデアを出すためには、必要以上の努力や不自然な行動を強制することも場合によっては必要です。いろいろな方法を試して見ることは意識的にムラを起こさせることです。いろいろなやり方でお互いに競争するために意識的なムラを認めることも必要です。ムダを承知で、新しい考えを試したり、新しい手段にこだわって見たり、遊びを入れてみたり、馬鹿なことを想像したりすることも、想像的な仕事をするためには必要なことです。急がば回れです。

改善活動の価値は効率(efficiency)だけではありません。効果(effectiveness)が重要な事もあります。効率が利得とそれを得るために払う犠牲との比率であるのに対して、効果は犠牲の如何んにかかわらず達成しなければならない結果のことを言います。例えば安全、品質、納期、量といったものです。戦争やF1レースのタイヤ交換は良い例です。当然効果を達した後で効率を追求することになりますが、効果問題の多くはムリ、ムラ、ムダを承知で取り組まれます。この場合にムリ、ムラ、ムダを持ち出すと間違った方向に進んだり、望ましいアイデアが出ないことになります。この問題に関しては、後の機会に詳しく取り上げることにします。

と言うわけで、ムリ、ムラ、ムダもあながち悪い側面ばかりではないことがお分かりになったと思います。通常の改善活動でも、ムリ、ムラ、ムダを完全に取ってしまうと(これをスタティック・バランスを取ると言います)、改善のためのアイデアを出す余裕が無くなってしまうかもしれません。改善のきっかけを残すために、多少のムリ、ムラ、ムダの範囲を残して置くと(これをダイナミック・バランスを取ると言います)、日常的な仕事の中から、改善のためのヒントが得られるかもしれません。つまり、意識的にムリ、ムラ、ムダを追求することも有るのです。ムリ、ムラ、ムダも奥が深いのです。

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