第二十一話「比率の呪い」
ある会社の購買グループが、工場で使用する薬液の購入を担当していました。その薬液は5トン入るタンクに貯蔵されています。但し安全規則上90%以上入れることはできません。工場は24時間休みなしで操業しています。但し、段取替えは約1日近かく掛かく掛かり、生産は完全に停止します。1日の使用量は約2トンに安定しております。

購買担当者は生産工程に原料が切れるのを恐れて、頻繁に発注しておりました。原料メーカーからの納入は日曜日はなく、発注は遅くとも3日前にしなければなりませんでした。

1年ほどの取り引きが経過したある日、原料メーカーから連絡が入り、これまでの納入実績から考えて、発注ロットが小さ過ぎるために、輸送費をカバー出来ず赤字が出るので、1トン当たり4万円の単価を4.5万円にして欲しいとのことでした。

賢明な読者はもうお分かりでしょう

相手の立場を理解して、この申出を受け入れるのも一つの方法です。しかし、もっと良い方法は無いだろうかと、購買部門からこの話を聞いた一人の現場生産管理担当者は考えました。原料メーカーに問合せた結果、輸送費は1回当たり3万円掛かると言うことが分かりました。薬品の利益が幾らあるのか分かりませんが、平均発注量2.1トンでは赤字になる可能性が高いことは容易に理解されました。本当に赤字が出ているとしたらば、発注頻度が高いほど赤字は大きくなります。原料タンクにオーバーフロー装置を付ければ、気温を考慮しながら、タンクの要領を5トンに極めて近くすることはできます。そうすることで発注回数を減らすことが可能です。在庫管理を改善しても発注回数を減らすことができます。

輸送費込みの単価で買うことは感心しません。このやり方で購買をしないで、輸送費と変動費を分けて支払うべきでしょう。発注をうまくやれば、かなりの購買費用の節約が可能であり、原料メーカーに損を掛けることも有りません。輸送費は積み込み量に比例して変動する部分も有りますが、大した違いは無いでしょう。今回の問題は易し過ぎたかも知れません。しかし、本題はこの問題を解くことではありません。この問題のようにコストや利益などを1台当たりとか1トン当たりの比率にして考えてしまうことの危険を提起したいのです。比率は便利なものです。比率に台数や人数を掛けると所与の総額が簡単に計算できるからです。しかし、比率は絶対量を隠してしまいます。比率が使える範囲、固定部分と変動部分の構造を知らないと、とんだ落とし穴に落ちることになります。利益率の高い順に生産をして行くと、総利益が少なくなる事も有るのです。生産量が増減するだけで原価が下がったり上がったりに一喜一憂したり、月の稼働日数が増減しているのに月当たりの故障率の変動に一喜一憂したりするのは愚かなことです。

しかし、比率と言う指標に慣れてしまうとこのことに疑いを持たなくなります。

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