第二十四話「FIFO(先入れ先出し)万能の世の中で」 |
一昔前に、公衆トイレ、公衆電話、銀行窓口、駅の出札窓口など個別の窓口に別々の行列が出来て、運のよい行列と悪い行列ができて、並ぶ人達の不満の種となっていました。この主たる原因は、サービスを提供する側のお客に対するサービス精神の欠如にあります。 昨今お客の側に強い権利意識が芽生えてきたために、カストマー・サービスなる概念が芽生えつつあります。その結果、数年前から分散している行列を1本にまとめる改善が起こりはじめました。このことによって、窓口毎の不公平さの大半は一掃されました。この方式には名前があって、single queue(単一行列方式)と呼ばれていて、アメリカなどの諸外国ではずっと以前から採用されてきたものです。これを行うには単一行列のためのスペースと標識が必要ですが、これさえあれば、FIFO実行のための、簡単でパワフルな手段となります。さてしかし、これだけで十分でしょうか? わが家の近くの郵便局には、郵便物を処理する主業務以外の業務のために窓口が5つあります。行列の順番を明確にするために番号札を出す機械(これは単一行列方式の機械化です)が1台あります。そこでは5人から30人の人々が待っています。でもお客の中には待ち時間を長く感じ、もっと旨いやり方があるのではないかと言う不満を持つ人がいます。 賢明な読者の方はもうお気付きでしょう。 そうです。お客が要求する用件の内容によって掛かる時間が違うのです。私の観察では、お客の4割位は単純な送金とか現金化といった用件で、簡単に伝票に認め印をもらうか現金を受け取るだけのために来ております。もしも、5つある内の窓口の1つを簡単な用件のためのものとし、お客様には並んだまま待って貰いどんどん処理してゆけば、この列の人達の待ち時間が画期的に減り、待合室の待ち人数も減ります。すでに、一部のスーパーマーケットや銀行ではこれを実行し始めています。 なんでもかんでも先入れ先出しルールを守る人が多いのには驚かされます。ここには改善の種が隠されています。ORの分野では、このような仕事の着手順序決定方法のことををディスパッチング・ルールと言う名称で扱っています。以下にそのいくつかを説明します。 (1) 先入れ先出し(First In First Out)ルール: 前述の例がそれです。 (2) 先入れ後出し(Last In First Out)ルール: 上記の全く逆のルールで、後から来た注文から先に処理するルールです。洗濯物は多くの場合引き出しの中でこの運命に出会います。引き出しの奥に入れられた洗濯物は使われない確率が高くなります。この点は意図的ではありませんが、人間が物を保存する時に起こる自然な現象です。このルールの面白い側面をIE小話第5話「FIFO物語」を参照してください。 (3) 処理時間最小のもの優先ルール:これは前述した郵便局の待ち行列を減らす例題で提案されたルールです。一つの注文が処理されるまで、他の注文は待たなければならないのなら、簡単に済む注文から処理してゆけば、待ち行列は短くなります。 (4) 処理時間最大のもの優先ルール:上記ルールの全く逆のルールです。処理時間の短い注文を後に回して、後で処理の仕事に小回りが利くような余裕を持たせたい時に使うルールです。あるいは、お客を待たせても(後から入って来る注文があるとすれば)処理をなるべく切れさせないようにさせる時使えます。(設備を多く使う注文では)出来るだけ設備を止めずに仕事をし続けたい場合にもこのルールが役立つことがあります。 (5) 納期優先ルール:単純に納期の余裕のない注文から着手するルールです。これは一見妥当のように見えますので誰でも思いつく考えですが、注文の来方あるいは処理時間の大小を考慮すると、全体の納期を遅らせてしまう危険があります。 この他に、着手順序によって増減する、段取り時間、使用する資源(設備、スペース、エネルギー)、廃棄しなければならない材料、輸送費など考慮すべき価値は無数にあります。仕事の着手順序を意識して仕事の計画を立てましょう。 追加コメント:単一行列には一般に使われ始めた名称がありました。2007年1月20日の日本経済新聞(NIKKEI プラス1、s15面)によれば、最近この並び方のことを「フォーク並び」と呼ぶそうです。確かにフォークを手元から先を見れば4本の枝に分かれていて名は体を表しています。 |
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